日本語の美しさ

第44回 歌詞のアクセント1

日本語のアクセントは高低によるものです。 それが、歌にも反映されることがあります。有名なのは、三木露風作詞、山田耕筰作曲の『赤とんぼ』でしょう。
1.夕焼け小焼けの 赤とんぼ 負われて見たのは いつの日か
2.山の畑の桑の実を 小かごに摘んだは まぼろしか
3.十五でねえやは 嫁にゆき お里のたよりも 絶えはてた
4.夕焼け小焼けの 赤とんぼ とまっているよ 竿の先
この「あかとんぼ」の箇所のメロディーが、言葉のアクセントの頭高型(高い所を●、低い所を○で表すと●○○○○)を反映しています。 「えっ、違うよ。だってあかとんぼは○●●○○で発音するんじゃない」と思った方は、日本語の標準アクセントに敏感な方ですね。 確かに現在では「あかとんぼ」を○●●○○ と発音するのが普通です。 しかし、三木露風がこの詞を発表したのが大正10年(1921)、山田耕筰が作曲したのが昭和2年(1927)で、 その時点では ●○○○○が標準的だったということですから、日常で用いられていたアクセントに忠実にメロディーが作られたというわけです。(こ)

第45回 歌詞のアクセント2

もう一つ、歌のアクセントで有名な逸話と言えば、藤山一郎の『蛍の光』です。 藤山一郎(1911〜1993)は『青い山脈』『丘を越えて』や、「新しい朝がきた、希望の朝だ」で始まる『ラジオ体操の歌』で有名な歌手です。
NHK紅白歌合戦で『蛍の光』を指揮していた人でもあります。 そのとき、藤山は歌の出だしの「ほたる」の部分を歌わなかったと言われています。 本来のアクセントとは異なる音の高低を嫌ったためだそうです。 「ほたる」は頭高型(高い所を●、低い所を○で表すと●○○)が標準的なアクセントですが、この歌では平板型(○●●)になっています。
彼がいかに日本語のアクセントを大切に思っていたかを物語るエピソードです。(こ)

第46回 歌詞のアクセント3

では、近年の歌のアクセントを見てみましょう。2003年のヒット曲『世界に一つだけの花』は槇原敬之の作詞・作曲です。
「そうさ 僕らは 世界に一つだけの花」という部分だけ見てみると、 「そうさ」は高い所を●、低い所を○で表すと○○●(標準アクセントでは●○○)、「ぼくらは」●○○○(標準アクセントでも同じ)、 「せかいに」○○○●(標準アクセントでは●○○○)、「ひとつだけの」●○○○●●(標準アクセントでは○●○○○○または ○●●●●○)、 「はな」●○(標準アクセントでは○●)というように、メロディーとアクセントの高低はあまり一致していません。 藤山一郎だったら、決して歌わなかったことでしょう。 でも、この歌が多くの人の心をつかんだように、アクセントにこだわらなくたって、いい歌はいい歌なのです。 私もこの歌が大好きです。だからといって、歌詞のアクセントをないがしろにしてほしくはありません。
日本語のアクセントを大切にした歌も生き続けてほしいと思います。(こ)

第47回 日本語の文字と表記1

日本語の学習者がよく言います。 「先生、平仮名と片仮名と漢字を勉強するのは本当に大変です!平仮名だけではだめですか?」みなさんが教師だったら、どう答えますか。 今回は私達日本人が当たり前のように使っている日本語の文字について少し考えてみたいと思います。
次の文は当校のパンフレットから抜粋したものですが、何種類の文字が使われているか数えてみてください。

「実習1では、基本的な教授技術能力を身につけます。その中にはVTR撮り、実技テストがあり、すべてにきめ細かい個別指導がなされます。 自分の能力アップを実感しながら履修できます。」

いかがですか。漢字・平仮名・片仮名、そしてローマ字・数字と、計5種類の文字が使われていますね。 (かぎかっこ(「 」)、読点(、)、句点(。)などの符号は除きます) 現在、世界には約400種の文字があると言われていますが、例えば、欧米諸国ではローマ字、お隣の韓国ではハングル文字、中国では漢字、 と主に一つの文字を使用している国がほとんどです。
そんな中で、日本語のように複数の文字を併用している言語は非常に珍しいと言えるでしょう。(イ)

第48回 日本語の文字と表記2

文字は表意文字と表音文字に大別されます。 表意文字とは、一文字一文字それぞれがある決まった意味を表している文字のことで、漢字に代表されるものです。 ほかにも象形文字や絵文字などがこの特徴を持っています。 一方の表音文字とは、一文字一文字が特定の意味を持たず、音を表すだけの文字のことで、 日本語の仮名のほかに、ローマ字やアラビア文字、ハングル文字などがこれにあたります。
日本語は、表意文字である漢字と表音文字である仮名を併用しているのですが、この表記形式を「漢字仮名交じり文」と呼びます。
さて、日本語学習者を悩ませるこの「漢字仮名交じり文」のメリットはどこにあるのでしょうか。(イ)

第49回 日本語の文字と表記3

A:じっしゅういちでは、きほんてきなきょうじゅぎじゅつのうりょくをみにつけます。 そのなかにはぶいてぃいああるどり、じつぎてすとがあり、すべてにきめこまかいこべつしどうがなされます。 じぶんののうりょくあっぷをじっかんしながらりしゅうできます。

B:実習1では、基本的な教授技術能力を身につけます。 その中にはVTR撮り、実技テストがあり、すべてにきめ細かい個別指導がなされます。 自分の能力アップを実感しながら履修できます。

いかがですか。Aの平仮名だけで表記された文はとても読みにくいですね。 これは、一種類の文字だけで表記すると、どこまでが一つの単語なのか、どこで文節が区切れるのかという文の構成がわかりにくくなるためです。
日本語の表記の原則として、Bの文のように、名詞、動詞・形容詞の語幹(変形しない部分)などの実質的な意味を表す部分は漢字で書き、 助詞・助動詞、動詞・形容詞の活用語尾(変形する部分)などの文法的な要素を表す部分は平仮名で、 そして外国の地名・人名、外来語などの特殊なものは片仮名で書くという決まりがあります。
このように複数の文字を使い分けることによって、単語や文節の区切れ目が明確となり、 英語などのように分かち書きする必要がなくなるというわけです。(イ)

第50回 日本語の文字と表記4

では、もう少し詳しく、それぞれの文字のメリットを考えてみましょう。
表意文字である漢字は、平仮名だけでは意味が理解しにくい同音異義語 (例:こじん→個人・故人・古人)や同訓異義語(例:あつい→暑い・厚い・熱い)を区別しやすくします。 また、知らない言葉でもその漢字から大体の意味を類推することもできます。
片仮名はどうでしょうか。片仮名は外国の地名・人名や外来語の表記だけに使用されるわけではありません。次の文を見てください。

 ・ 「キャー」という悲鳴が聞こえた。(発音)
 ・ ギラギラした太陽が照りつけている。(擬態語)
 ・ デカがホシを挙げる。(俗語・隠語)
 ・ 彼女は彼の飲み物にヒ素を盛った。(常用漢字から外れる表外字の代用) 
 ・ 血液検査の結果、私はスギやヒノキの花粉アレルギー、イヌやネコの動物アレルギーだとわかった。(学術用語)

いかがですか。外来語ではなくても、その音や意味を特別なものとして強調したい、目立たせたいときに片仮名が使われているわけですね。(イ)

第51回 日本語の文字と表記5

では、ローマ字はどうでしょうか。
例えば、VTRがブイティーアールと書いてあった場合、まず文字数が多くて読みにくいですね。 また、JRがジェイアールと書いてあったら、それが電車の会社だと気付くまでに時間がかかるかもしれません。 つまり、私達が仮名ではなく、あえてローマ字表記を選ぶのは、それが一つの意味を持つ記号のように示せるからなのでしょう。
日本語が複数の文字を併用するのは、それぞれの文字の特徴を活かした使用法によって、文の構成がわかりやすく、 拾い読みしやすくなるからということがわかっていただけたでしょうか。
もちろん、日本語学習者の中には、そのニーズや環境によっては、平仮名・片仮名・漢字の全てをマスターする必要はない人もいます。 ただ、日本の書物や映像を見聞きするためには、書くことは無理でも読めなければなりませんし、 文字を知ることによって、日本での生活もより一層便利になるでしょう。
小学生の頃、漢字ドリルが大嫌いだった私は、日本語学習者のように「どうして漢字なんて覚えなきゃいけないんだろう」と嘆いたものですが、 あの時、漢字の学習をがんばっておいて良かったと今はしみじみ思います。(イ)

参考:『日本語教育講座4 日本語の歴史』(千駄ヶ谷日本語教育研究所 発行)

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第52回 敬語・敬意表現1 −敬語1−

みなさんは次のような文についてどう思いますか。 「1受付の担当者にうかがってください。」「2開場までロビーでお待ちしてください。」「3お早めにお召し上がりになってください。」
街中で耳にする機会もあるかもしれませんが、これらは敬語の使い方を間違っているものです。 1と2は、本来謙譲語である「うかがう」「お待ちする」を尊敬語として使っているもので、 正しくは「受付の担当者にお尋ねください。」「開場までロビーでお待ちください。」です。 また3は、丁寧に聞こえますが、「召し上がる」と「お〜になる」という尊敬語が重複していますから、 「お早めに召し上がってください。」が正しい使い方です。
最近、日本語の乱れや敬語の使い方について取り沙汰されることがよくありますが、 文部科学大臣の諮問機関である文化審議会国語分科会(阿刀田高会長)では、敬語の適切な使い方を示した実例集を作成することを決めました。
敬語や話し方についての本は数多く出版されていますが、国の審議会が具体的に指針を作るのは初めてとのことです。(に)

第53回 敬語・敬意表現2 −敬語2−

文化庁の2003年度の世論調査によると、敬語を必要と感じている人は9割を越えており、敬語への関心は極めて強いといえます。 もともと日本語は場面依存性が高いとされ、場の在り方や雰囲気、 相手との関係(上下関係・ウチソトの関係・親疎の関係)によって語彙や表現が変わるわけですが、敬語はその典型例です。 丁寧な言葉遣いによって、目上の人(年齢、社会的立場、キャリアが自分より上位にある人)に対する敬意を表します。 顧客とのよりよい関係や職場での円滑な人間関係のためには、敬語を正しく使いこなすことが大きな条件となります。
敬語は、現在、一般的には尊敬語、謙譲語、丁寧語の3種類に分類されています。
尊敬語は、目上の人やソトの人、あまり親しくない人に対して、相手や話題の人物を高める表現を使うことで敬意を表します。 一方、謙譲語は、自分や身内、話題の人物を低めることで結果的に相手や話題の人物を高め、敬意を表します。 丁寧語は、相手を高めるために表現を丁重にするもので、 聞いている人に好感を与える美化語(「お食事」「おつとめ」など)も丁寧語の一部とされています。(に)

第54回 敬語・敬意表現3 −尊敬語−

敬語表現には、元の動詞を別の動詞に置き換えて敬語表現にするもの(置換式敬語)と、動詞の前後、または後ろに補助動詞、 助動詞を添えて敬語表現にするもの(添加式敬語)があります。
尊敬語には、大きく分けると三つのタイプがあります。 1置換式敬語、2「お〜になる」「ご〜になる」(添加式敬語)、3「〜(ら)れる」(添加式敬語)の三つです。 例えば、1召し上がる、2お飲みになる、3飲まれる、というようになり、場面によって使い分けられます。 この内、2については、相手に指示したり、依頼したりする場合、「お掛けください」「ご搭乗ください」というように、 「お〜ください」「ご〜ください」の表現が使われます。 また、3の表現は、受身や可能の表現と同じ文型であるため、「夕食を食べられましたか」というような場合、 「夕食を召し上がりましたか」という言い方をすれば、意味の混同が避けられます。(に)

第55回 敬語・敬意表現4 −謙譲語−

謙譲語は、自分(話し手)や身内、話題の人物に関することや動作に使ってへりくだることで、 結果的に相手や話題の人物を高め敬意を表すものですが、尊敬語と同じように、 元の動詞を別の動詞に置き換えて敬語表現にするもの(置換式敬語)と、動詞に補助動詞、 助動詞を添えて敬語表現にするもの(添加式敬語)があります。
謙譲語には、大きく分けると二つのタイプがあります。 1置換式敬語、2「お〜する」「ご〜する」(添加式敬語)です。 例えば、1参る、2お渡しする、ご案内するというようになり、場面によって使い分けられます。 この内、2の添加式敬語として、「あげる」「もらう」の謙譲語にあたる「さしあげる」「いただく」を使って、 「〜てさしあげる」「〜ていただく」や「〜せ(させ)ていただく」という表現も、より敬意を込めたものとして使われます。
この内、「〜てさしあげる」、「〜せ(させ)ていただく」は、話し手自身の動作につけて敬意を表しますが、 「〜ていただく」は、相手の動作につけることで、相手が話し手のためにしてくれたことへの謙譲の気持ちを表すものです。 例えば、「駅まで送っていただきました」というように使われます。(に)

第56回 敬語・敬意表現5 −敬意を表す接頭語や接尾語−

先に取り上げた尊敬語や謙譲語を使って表現する場合、動詞以外の単語の前や後に接辞をつける場合があります。 これが接頭語や接尾語と呼ばれるものです。
尊敬語として使われる接頭語としては、「お住まい」「ご家族」「御社」「貴社」、 接尾語としては「林さん」「林様」「課長殿」などがあります。 一方、謙譲語として使われる接頭語としては、「弊社」「愚案」「粗品」、接尾語としては「私ども」などがあります。
接頭語・接尾語は、それが付く単語によって概ね決まってきますが、「様」と「殿」のように使い分けが問題になる場合もあります。 皆さんの中にも、使い分けに迷った経験がおありの方がいらっしゃるかもしれません。 元々敬称としては、邸宅に住まう人という意味の「殿」がありましたが、鎌倉時代ごろから「様」が併用されるようになりました。 このように書くと、敬意に差があるかのようですが、そうではなく、先ほどの例に示したように、私名に付けるのは「様」、 官職に付けるのは「殿」という使い分けがあります。(に)

第57回 敬語・敬意表現6 −丁寧語−

丁寧語には、特に敬意を意識することなく、文末表現の「です」「ます」や、 「レストランは8階でございます」「暖かくなってまいりました」といった、 状況に即したやわらかい言い方も広く含まれますが、「こっち・そっち・あっち」に対して「こちら・そちら・あちら」と言うように、 基本的には丁寧な言い方をすることで相手を敬う気持ちを表すものです。
この「相手を敬う気持ち」という点に関して、しばしば問題となるのは「ございます」の使い方です。 1「お電話かわりました○○でございます」は、丁寧語として違和感を与えませんが、2「何かご質問がございますか」という言い方については、 「何かご質問がおありですか」が適切だと考える人が多いようです。 それは、「ございます」が、1のように自分に関しても使えるのに対して、「おありです」は相手にしか使えないことから、 2のようなケースで「ございます」を使うのは、相手を敬う気持ちを表さないからだと考えられます。
ただ、例えば、「お忘れ物ございませんよう」や、「お変わりございませんか」のように、日常的に耳にする機会が多く、 徐々に一般化の傾向をたどっている言い方もあります。(に)

第58回 敬語・敬意表現7 −美化語−

美化語とは、言葉を和らげ、聞いている人に好感を与えるもので、丁寧語の一部とされており、 既に取り上げた「敬意を表す接頭語や接尾語」との違いが近年曖昧になってきていると言われています。
美化語については、「お」を付けるか、「ご」を付けるかが、しばしば問題になります。 一般的には、「お心」「おふたり」のように、日本に古くからある和語には「お」を付けるのに対して、 「ご来店」「ご丁寧」のように、漢語には「ご」を付ける傾向がありますが、「お荷物」「お電話」のようなケースもあり、一概には言えません。 中には、「おかず」「ご飯」「お陰」のように、慣用的に定着しているものもあります。 また、片仮名で表記される外来語には「お」や「ご」を付けない、という原則がありますが、 最近は「おビール」「おトイレ」などサービス業関係者が使っているケースをよく耳にします。 こうした言葉は、日常的に使われることが多いため、外来語としての意識が薄れてしまっているためではないか、と指摘されています。
ただ、例えば、「あちらのお入口よりお入りください」というように、あまり使いすぎると却って慇懃無礼な印象を与えることもありますから、 注意が必要です。(に)

参考文献
・ 『読売新聞』2005年2月2日付
・ 『月刊日本語』1998年4月号、アルク
・ 『ビジネスマナー入門』梅島みよ・牧野真知子、日本経済新聞社
・ 『恥をかかない日本語の常識』日本経済新聞社
・ 『新・オトナの学校 仕事常識』安部健太郎、他、日本経済新聞社
・ 『実社会で求められるビジネスマナー』井上洋子、専門教育出版
・ 『問題な日本語』北原保雄、
・ インターネット:スペースアルク「ことばの使い方(社会言語学・敬語)」
・ インターネット:ポカポカ春庭のニッポニアニッポン言語文化研究

第59回 「おむすび」と「しゃもじ」の共通点1

「おむすび」という言葉と、ご飯などをよそう時に使う道具である「しゃもじ」。 この二つの言葉にはどのような共通点があると思いますか。 …どちらもご飯に関係がある、ということではなく、その語源を考えてみてください。
正解は二つとも女房詞であることです。 女房詞とは、宮廷に仕える女房たちが使用していた忌み言葉です。 中世、宮廷に使えて天皇家の三種神器を守ったり、天皇の諸文書を扱ったりする仕事をしていた女房達は、 「けがれ」に関する言葉を避けて別の表現を使っていました。 「けがれ」ではなくても、食生活のように「俗」なる面を持つものについても、直接表現しないことが多かったのです。
つまり、「おむすび」も「しゃもじ」も、 高貴な仕事をしていた女房達が品位を保つために使っていた言葉が現在にも残っているということになります。(中)

第60回 「おむすび」と「しゃもじ」の共通点2

女房詞には、どのようなものがあるでしょうか。そのパターンの代表的なものを見てみましょう。
「しゃもじ」は、「しゃくし」という言葉の頭の音に「文字」を付けて作られた言葉です。 これと同じパターンで作られた言葉には、「黒文字」「ひもじい」などがあります。 「ひもじい」は「空腹だ」という意味の言葉ですが、もとは「ひだるい」だったものが「ひもじ」という女房詞となり、 語末に「い」がついて形容詞化されたものです。 「ひもじい」で一つの独立した言葉のように感じられますが、実際は「ひ」+「もじ」+「い」だったんですね。(中)

第61回 「おむすび」と「しゃもじ」の共通点3

「〜もじ」のように元の言葉の一部を使うのではなく、全く別の表現に置き換えてしまうこともあります。 最初にあげた「おむすび」はこのパターンに入ります。元の言葉は「にぎり飯」です。
同じパターンの言葉には、「お冷し」(「水」の意味。現在は「お冷」という形でよく使われています)、 「お手許」(現在は割り箸などに使っていますが、「箸」の意味)、「お足」(「お金」の意味)、 綺麗な話ではありませんが「おなら」などがあります。 味噌汁を意味する「おみおつけ」は、ご飯に添えるものという意味で「お付」という女房詞が作られ、 丁寧な表現にする「御」が2回付け加えられてできた言葉だというエピソードをご存知の方もいらっしゃると思います。
つまり、「おみおつけ」を漢字で書くと「御御御付」ということになります。 こうしてみると、料理の名前であることすらもわからなくなりそうですね。(中)

第62回 「おむすび」と「しゃもじ」の共通点4

女房詞は、高貴な仕事をしている女性達が品位を保つために、「けがれ」のある表現を嫌って作った言葉です。 当時と違って、現在では食事に関する言葉を避けようとする考え方はあまりないでしょうが、 あまりストレートに表現したくない言葉に対して違った表現が作られ、女性語となる現象は見られます。 例えば、「便所」という言葉を女性が口に出したら、周りの人はどう思うでしょうか。 以前は「はばかり」などという表現も使われていましたが、現在は「お手洗い」「化粧室」のような表現を使って、 直接口にしなくてもいいように言い換えていますね。
女房詞というと、古い言葉のように感じられますが、元は女房詞だったものが現在でも多く使われていますし、 同じような発想から言葉が生まれています。普段使っている言葉を、少し振り返って考えてみると面白いですよ。(中)

第63回 ら抜き言葉1

皆さんは、「食べることができる」という可能の意味で、次のどちらをよく使いますか。
A:私は納豆が食べられる B:私は納豆が食べれる
当養成講座の受講生でも最近はAよりBを使うという人が増えています。 このBの「ら」を抜いた形を「ら抜き言葉」と呼ぶことがありますが、これを日本語の乱れだと憤慨するA派がいます。 一方で「ら抜き言葉」はまだ文法的には許容されていないと話すと、自分も周りの人も使っているからこれでいいんだと開き直るB派もいます。
教師として、あるいは教師を目指すものとしては、ただお互いを非難するのではなく、 なぜこうなったのかという理由や原因を考えることが大切ではないでしょうか。 (イ)

第64回 ら抜き言葉2

言葉は変化するものです。 日本語もこれまで長い間、変化を続けてきました。またこれからも変化していくでしょう。その変化には何らかの理由があるはずです。
では、今回のテーマである「ら抜き言葉」が生まれたのはなぜなのでしょうか。 「食べれる」のように「食べる」などの一段動詞の可能形から「ら」がなくなったのは、 受身形(尊敬形)との違いを明確にするためだという考え方があります(*参考文献)。
可能形 受身形(尊敬形)
五段動詞 飲む 飲める 飲まれる
一段動詞 食べる 食べられる (→食べれる) 食べられる
カ変動詞 来る 来られる (→来れる) 来られる
誰かが「食べられた!」と言うのを聞いたとき、みなさんは何を想像しますか。 今まで食べることができなかったものを食べることができたのか、あるいは、誰かに自分の食べ物をとられたのか。 「食べられた」だけではこの区別はできませんよね。
つまり、機能が違うのであれば形も違っていたほうがわかりやすいという考え方です。(イ)

第65回 ら抜き言葉3

前回、「ら抜き言葉」誕生の理由を一つご紹介しました。 だったら、「ら抜き言葉」のほうが正しいじゃないか、ら抜き言葉をどんどん使おう、と言う人がいるかもしれません。 でも、ちょっと待ってください。例えば、次の一段動詞の可能形はどうなりますか。
1. あの人のことが A:忘れられないの。B:忘れれないの。
2. 明日、これを A:届けられますか。B:届けれますか。
「忘れる」も「届ける」も一段動詞ですが、Bの「ら抜き言葉」よりも、Aの「ら」を入れた形のほうが自然ではありませんか。 このように、拍数の多い一段動詞は「ら」を抜かないことが多いですので、全ての一段動詞に「ら抜き」が当てはまるとは言えません。
また、話し言葉では「ら抜き言葉」を使っていても、レポートやスピーチ、あるいは目上の人と話す場合などはあえて「ら」を入れる人もいます。
つまり、「ら抜き言葉」に対して、まだまだ批判的な考えを持つ人がいる以上、 使用する側が公的な場面と私的な場面とできちんと使い分けることも必要だということでしょう。(イ)

第66回 ら抜き言葉4

では、実際、この「ら抜き言葉」を日本語学習者にはどう教えていけばいいのでしょうか。 まずは、「食べられる」という「ら」を抜かない原則を教え、それが定着した後、最近の傾向として、 「食べる、見る、寝る、出る、来る」といった日常生活でよく使う身近な動詞で拍数の少ない場合は「ら」を抜くこともある、 と紹介するという方法があります。
日本人だから日本語を知っているとは言えません。無意識に話している私達日本人が一番日本語を知らないとも言えるのではないでしょうか。 日本語に携わる者として、自分が普段使っている日本語に対して、常に客観的な目を持つことを心がけたいものです。(イ)

参考文献
:『日本語ウォッチング』井上史雄 岩波新書
:『心を伝える日本語講座』水谷信子 研究社出版

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