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日本語の美しさ

第67回 五十音図1

皆さんは五十音図をご存知ですね。 あいうえお/かきくけこ/さしすせそ…という一覧表のことです。 今回は、知っているようで知らない五十音図の話をQ子さんとA男くんの会話で進めていきたいと思います。


Q子:どうして「五十音図」って言うの?

A男:「あ・か・さ・た・な・は・ま・や・ら・わ」の10行×「あ・い・う・え・お」の5段(列とも言う)の、50音でできた図だからだよ。

Q子:「ん」は含まれないの?

A男:「ん」は、日本語の音の中では特殊な音なんだ。後ろに母音が続かないし、語頭には使われないから。 だから、五十音図ができた頃は含まれていなかったんだ。今は「ん」が書いてあるのも見るよね。

Q子:「がぎぐげご」や「きゃきゅきょ」や小さい「っ」は?

A男:五十音図ができた頃は、「がぎぐげご」のような濁音、「きゃきゅきょ」のような拗音、促音「っ」は、今のような書き方をしていなかったんだ。 例えば「逆」は「ぎゃく」じゃなくて「きあく」と書いていたようなんだ。
だから、五十音図には含まれていなかったんだよ。

Q子:ところで五十音図はいつできたの?(こ)

第68回 五十音図2

Q子:ところで五十音図はいつできたの?

A男:明治時代や江戸時代だと思っている人が多いけど、登場したのは平安時代の末期で、「いろは」ができたのよりも古いんだ。 でも、当時は仏教僧しか知らなかったから、一般の人が知るようになったのは、明治時代に学校教育で取り上げられるようになってからなんだよ。

Q子:どうして仏教僧は知っていたの?

A男:五十音図を作ったのが仏教僧だからだよ。仏教は、インドから中国を経由して日本に伝わったものだよね。 だから、日本人の僧たちが手にした経典は漢字で書かれていたけど、元々は古代インドの文語(サンスクリット)で書かれたものだったんだ。 それで、ところどころ中国語に翻訳されないで、サンスクリットの発音に近い漢字を使って書かれていることがあったらしいんだ。

Q子:じゃあ、僧たちは漢字の知識も、サンスクリットの知識も必要だったってこと?

A男:そういうこと。まだ日本には平仮名も片仮名もなかったから、僧たちは経典を読むとき、 知らない漢字の読み方を知っている漢字に置き換えてメモしておく必要があったんだ。でも、経典の狭いスペースに書かなければいけなかったから、メモとしての漢字は画数を省略して書かれるようになったんだ。 それが後に片仮名になったんだよ。(こ)

第69回 五十音図3

A男:漢字やサンスクリットに接したことで、仏教僧たちは日本語の音とそれを表記する文字に対する意識を高めることになったんだ。 彼らは、英語のabc… に当たるような、サンスクリットの音の並び方を知るようになったし、その順番が体系的であることも学んだ。 その音の中で、日本語の発音と共通する音を順に拾っていったら、「あいうえお」になった。 子音も同様に拾っていって、母音と組み合わせて、できたものを並べていった。こうして五十音図の元ができたんだ。

Q子:並び順が体系的って、例えば「あいうえお」は母音だからはじめに来るってこと?

A男:それだけじゃなくて、「かさたなはまやらわ」の順番にも意味があるんだ。 「か」の子音kは口の奥のほう(軟口蓋)で作られて、「さたな」のs・t・nは歯茎の辺りで作られて、「はま」は唇で作られるというように、 音が作られる場所が奥から前に並んでいるんだ。 「やらわ」は半母音というグループにまとめられる。 今は日本語の「ら」の子音rは半母音とは考えられていないけど、サンスクリットでは半母音と考えられていた音だったんだ。

Q子:ちょっと待って。「は」の子音hは唇を使わないんじゃない?(こ)

第70回 五十音図4

Q子:ちょっと待って。「は」の子音hは唇を使わないんじゃない?

A男:今の発音だと「は」の子音hは唇を使わない音だけど、五十音図ができた頃は唇を使っていたと考えられているよ。 「は・ひ・ふ・へ・ほ」は「ふぁ・ふぃ・ふ・ふぇ・ふぉ」または「ぱ・ぴ・ぷ・ぺ・ぽ」のような音だったらしい。 それで、同じように唇を使う「ま」の子音mの前に「は」が来るんだよ。

Q子:へえ…。実は前から気になってたんだけど、「わ」の子音はwだから、「を」はwo「うぉ」って発音するのが正しいんだよね?

A男:今は違うよ。五十音図ができた頃は確かにそう発音していたけど、今は「あいうえお」の「お」と同じ発音だよ。

Q子:知らなかった。丁寧に発音するときはwo「うぉ」って言うものだと思ってた。それから、どうしてわ行にはい段・う段・え段がないの?

A男:昔は、い段にはwi「ゐ」、え段にはwe「ゑ」という発音と文字があったよ。 発音がなくなった後も文字のほうは残ってたけど、旧仮名遣いから新仮名遣いに変わったときに、文字も使わないことになったんだ。 う段には発音も文字も元々なかったんだよ。

Q子:じゃあ、や行のい段・え段がないのは?

A男:や行のえ段jeは五十音図ができるより前には発音されていたらしいけど、五十音図ができた頃にはもうなくなっていたんだ。 い段には発音も文字も元々なかったんだよ。

Q子:五十音図っていろいろなことを考えるヒントを与えてくれるね。


さて、Q子さんとA男くんの話はいかがでしたか。 もし、五十音図が作られていなかったら、辞書も名簿も五十音順になっていなかったわけですね。
外国人がはじめて仮名を覚えるときにも、五十音図を使います。皆さんももう一度、五十音図を眺めてみてはいかがでしょう。(こ)

参考文献
・『日本語教育講座4 日本語の歴史』千駄ヶ谷日本語教育研究所
・『五十音考』西野博二 http://www.asahi-net.or.jp/~va4h-nsn/on50.htm

第71回 新語・その1(外国語→日本語)1

「2幕でスタンバっているときなんか、緊張して、周りの人に話しかけられても答えられないんですよ。」
以前読んだ雑誌の中に、舞台俳優さんの言葉としてこのようなものがありました。 この言葉の中には、本来外国語であるものが、日本語の動詞であるかのように使われている部分があります。 …カタカナ表記なのでおわかりですね。「スタンバっている」という部分です。 日本語のみで表現するとすれば、「準備している」或いは「待っている」という言葉に言い換えられます。
この「スタンバる」のように、外国語を日本語の動詞のように使う表現が、特に若者の間でよく見られます。 皆さんはこのような言葉をどう思われますか。(中)

第72回 新語・その1(外国語→日本語)2

「スタンバる」という言葉を文法的に考えてみましょう。 元は英語の"stand by"です。それに接尾語「る」をつけて、日本語の動詞のようにした合成語です。 「スタンバって」となる活用形から見ると、「取る」「頬張る」と同じ五段動詞の扱いです。 同じように作られた言葉に、「テンパる」というものもあります。 「麻雀で、あと一枚で上がること」「薬物で混乱すること」という意味だそうですが、 最近は「いきなり英語で話しかけられて、テンパってしまった」「テスト続きで今はテンパっているから、何かあったら来週言って」 のような言い方も耳にすることがあります。
これらは「混乱して頭が真っ白になる」「自分の許容量を超える状態で混乱する」のような意味でも使われているのでしょう。 この「テンパる」は、麻雀の「テンパイ」(あと一枚で上がりとなること)に「る」をつけた形です。 「テンパイ」は中国語の"听牌"から来た言葉ですので、中国語が日本語に変わったということですね。(中)

第73回 新語・その2(外国語→日本語)3

前に挙げた「スタンバる」「テンパる」などのような言葉は、若者に多く見られる表現ですので、 「自分はそんな言い方はしない」と思われる方がいらっしゃるかもしれません。 しかし、今はすっかり定着している言葉にも、 元は外国語だったのに「スタンバる」のように接尾語「る」をつけて日本語化してしまったものがあります。
代表的な例としては「ダブる」「サボる」が挙げられます。 「ダブる」は英語の"double"、「サボる」はフランス語の "sabotage"が元の形です。 これらは平仮名で「だぶる」「さぼる」と表記する人もいるくらい、日本語として定着しています。 「スタンバる」や「テンパる」も、何(十)年後かには同じようになるかもしれませんね。
ちなみに「サボる」は1919年の神戸川崎造船所の労働争議で「サボタージュ」という言葉が使われ、その後すぐに派生したそうです。 80年以上前から使われている言葉なんですね。(中)

第74回 新語・その1(外国語→日本語)4

私たちが言葉を使うとき、「話の効果が上がるように」「意思が伝わるように」という観点から言葉を選びます。 本来ある日本語の表現を使わずに、「スタンバる」のように外国語を日本語化した表現を選択することによって、 話し手はどのような効果を意図しているのでしょうか。
「アイデンティティー」「フラストレーション」のような外来語を使う理由として、 「かっこいい感じがする」「新しい感じがする」「日本語に適当な訳語がない」などが挙げられますが、 外国語を日本語化した言葉の使用も、同じような理由になるのではないでしょうか。 先にご紹介した俳優さんの言葉も、「2幕で(袖で)待っているとき」と言い換えられますが、 (ご本人の実際の意図はわかりませんが)「待っている」という訳語では表しきれない 「すぐに出られるように準備して待っている」という緊張感を表したかったのではないかと考えることができます。
若者によって新しく作られた言葉・表現は、「日本語の乱れ」などマイナス評価を受けることがあります。 しかし、本来ある日本語では表現しきれないニュアンスを伝えるために言葉が生まれるという現象は以前からあるものですし、 逆に日本語を豊かにしているとも考えられます。新しく生まれる言葉についていけるように、心の中で「スタンバって」おきましょう!(中)

第75回 あ、ごめん、ちがかった1

みなさんはどちらを使いますか。

A:「ねえねえ、この道、ちがくない?」
B:「ねえねえ、この道、ちがわない?」

A:「あ、ごめん、ちがかった」
B:「あ、ごめん、ちがった」

A:「友達に書いてもらった地図がちがくてさあ、道に迷っちゃったよ」
B:「友達に書いてもらった地図がちがっててさあ、道に迷っちゃったよ」

正解はどれもBです。でも、最近Aの方をよく耳にしませんか。 では、なぜこのAの言い方をする人が増えてきたのでしょうか。 単純に「言葉の乱れ」と言い切れない要素もあるようです。次回から、その原因を探っていきたいと思います。(イ)

第76回 あ、ごめん、ちがかった2

では、「ちがかった」を文法的に分析していきましょう。
まず、「違う」の品詞は何でしょうか。 品詞とはある単語をその単語が持つ文法的な特徴によってグループ分けしたものなのですが、「違う」は動詞に分類されます。
動詞の文法的特徴を挙げると、活用(語尾変化)して、 言い切った形(終止形)が「う段」で終わる(会うu・書くku・話すsu・立つtsu・読むmu・・・)ものだと言えます。
では、動詞の中で「違う」と同じく、「あ行」の「う段」である「う」で終わる「会う」「使う」「笑う」はどんな活用をするのでしょうか。 見てみましょう。

否定 過去 接続
わない った って
使 つかわない つかった つかって
わらわない わらった わらって
ちがわない ちがった ちがって
*ちがくない *ちがかった *ちがくて
同じ「う」で終わるものは活用の仕方が同じだということがわかりますね。
では、「ちがくない」「ちがかった」「ちがくて」のように、否定を表す時に「〜くない」、 過去を表す時に「〜かった」、接続する時に「〜くて」と活用する品詞は何なのでしょうか。(イ)

第77回 あ、ごめん、ちがかった3

前回、「違う」が動詞だというお話をしましたが、最近よく耳にする「ちがくない」「ちがかった」「ちがくて」のように、 否定を表す時に「〜くない」、過去を表す時に「〜かった」、接続する時に「〜くて」と活用する品詞があります。さて、何だと思いますか。 答えは形容詞です。形容詞は、動詞と同じく、活用する品詞で、言い切ったときに「い」で終わるという特徴があります。 >前回、「違う」が動詞だというお話をしましたが、最近よく耳にする「ちがくない」「ちがかった」「ちがくて」のように、 否定を表す時に「〜くない」、過去を表す時に「〜かった」、接続する時に「〜くて」と活用する品詞があります。さて、何だと思いますか。
答えは形容詞です。形容詞は、動詞と同じく、活用する品詞で、言い切ったときに「い」で終わるという特徴があります。

否定 過去 接続
おいしい おいしくない おいしかった おいしくて
あかい あかくない あかかった あかくて
違う *ちがくない *ちがかった *ちがくて
「違う」が否定も過去も接続する時も形容詞と同じ活用をしているのがわかりますね。 つまり、「ちがくない・ちがかった・ちがくて」は文法的に見て、確かに間違いは間違いなのですが、一本筋の通った間違いなのです。 「ちがくない・ちがかった・ちがくて」と統一して使っている人は、それがたとえ無意識であったとしても、 「違う」を形容詞の仲間と捉えていると考えられます。
では、このような品詞の混乱が生じたのはなぜなのでしょうか。これは、「違う」という動詞が持つ性質のせいだと思われます。
一般的に、動詞というと、「食べる」「歩く」といった何か動作を伴うものというイメージが強いですね。 それに比べて、「違う」は動作というより状態を表しています。
状態を表す述語には、「違う」の他にも「ある・いる」「思う」「できる」などの状態性動詞や、 形容詞(「この本はおもしろい」)・形容動詞(「桜がきれいだ」)・名詞(「彼は社長だ」)が含まれます。 つまり、「違う」は意味的には、動詞というより形容詞に近いと言えるわけです。
また、「違い」という名詞がありますが(「違いがわかる男」「AとBの違いを述べよ」)、 これが形容詞のように「い」で終わるという点も、名詞・動詞・形容詞のどれかで混乱する要因の一つかもしれません。(イ)

第78回 あ、ごめん、ちがかった4

前回、「ちがかった」という誤用が生まれた原因を考えました。 そこには「違う」という動詞の形容詞的な性質が関係していて、「言葉の乱れ」と単純には言い切れないこともわかりました。 ただ、これを読んで、「じゃあ、『ちがかった』って言ってもいいんだ」と考えるのは少し短絡的ではないでしょうか。 家族や友達などの内輪でのくだけた会話であれば自由でしょうが、 公的な場面で「それはちがくありませんか?」「この電話番号はちがくて、〜」「あの件はちがかったと思われます」などと言ったとしたら、 社会人としての常識を疑われるかもしれません。 また、日本語学習者に対しても、「ちがかった」が正しいと教えたとしたら、品詞の概念や活用のルールという点において、 学習者を混乱させてしまいます。
言葉の変化を客観的に捉え、その変化の原因や過程に思いをはせつつ、時と場合によって使い分けられる、 そんなバランス感覚を持った言葉の使い手になりたいものです。(イ)

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第79回 鼻濁音1

タイトルを見て「鼻濁音って何?」と思った方は、「がぎぐげご」を発音するときに鼻からも息を出してみてください。 それが鼻濁音です。それでもよく分からない方は、「津軽海峡冬景色」と歌う石川さゆりの歌い方を思い浮かべてみてください。 「つがる」の「が」、「ふゆげしき」の「げ」の部分が鼻に掛かっていますね。 皆さんは「がぎぐげご」や「ぎゃぎゅぎょ」を発音するとき鼻濁音を使っていますか。
当校の日本語教師養成講座の受講生を調べてみると、鼻濁音を使っている人は全体の1割以下です。 それほど使用率が低いにもかかわらず、「鼻濁音を使わないことが問題視される」ことがあります。なぜでしょう?(こ)

第80回 鼻濁音2

「がぎぐげご ぎゃぎゅぎょ」の発音にはいくつかのバリエーションがあります。 元気よくはきはきと「しょうがっこう!」と言ったときの「が」と、 弱々しく「しょうがっこう…」と言ったときの「が」が違うのは何となくわかりますね? さらに「が」の部分で鼻からも息を出して「しょうがっこう」と言ったときは、また違う「が」の音です。 このように「しょうがっこう」の「が」のような語中のが行の音は、3種類の発音の可能性があります。 そのどれで発音しても意味は変わらないので、私達はあまり意識せずに発音しています。
ところが、日頃から語中で鼻に掛かった「が」、つまり鼻濁音を使っている人は、鼻濁音以外の発音を聞くと違和感を抱く傾向があります。 最近ではその逆に、鼻濁音を使っていない人は鼻濁音に対して違和感を抱くようにもなってきています。 当校の日本語教師養成講座で鼻濁音を発音して聞かせると、笑いが起こります。(こ)

第81回 鼻濁音3

鼻濁音を使う、使わないには、地域差が大きいと言われていて、関東、東北、北陸で多く用いられ、 西日本ではあまり用いられないとされています。 当校の日本語教師養成講座の受講生の中には関東、東北、北陸地方出身者もいますが、前述のとおり鼻濁音を用いている人はほとんどいません。
少数派の鼻濁音使用者に、もともと使用していたのかどうか聞いてみると、アナウンサーになる勉強をしたのがきっかけだったり、 小学校のときの先生に「私が」の「が」を鼻に掛けるように言われたのがきっかけだったりしていて、 それ以降意識的に鼻濁音を使用するようになったとのことです。 もっとも、現在ではアナウンサーだからといって皆さんが鼻濁音を使っているわけではないようですが、 それでもアナウンサーの新人研修の項目に含まれているのは、 語中のが行で「鼻濁音を使わないのは聞き苦しい」という視聴者からの指摘があるからだそうです。(こ)

第82回 鼻濁音4

アナウンサーの世界はさておき、日本語教育の世界では鼻濁音はどう扱われているのでしょうか。 当校の日本語教師養成講座で使用しているテキストには次のように書いてあります。 「音声教育の面から大切なのは、(中略)教師としての自分の普段の発音を自覚し、学習者には、 破裂音でも鼻音でも意味は変わらないことを教え」ることだとなっています。 破裂音というのは、元気よくはきはきと「しょうがっこう!」と言ったときの「が」で、鼻音というのは鼻濁音のことで、 このほかに弱々しく「しょうがっこう…」と言ったときの摩擦音の「が」もあります。 日本語を学習している外国人を観察していると、教師が破裂音と摩擦音を使っているときには問題はないのですが、 鼻濁音を使うと、「?」という反応が見られます。 チームティーチングで複数の教師が教えると、鼻濁音を使う少数派の教師の発音のほうを聞き取りにくそうにしています。 思うにこれは、鼻濁音が聞き取りにくいのではなく、ほかの教師からは聞かれない音が、 ある特定の教師のときには聞かれることへの違和感なのでしょう。 「鼻濁音はきれいな発音なのだから存続させるべきだ」と考えている方にとっては意外かもしれませんが、 日本語教育の現場においては学習者の聞き取りやすさを考慮して、鼻濁音を意図的に使わないようにすることもあるのです。(こ)

参考文献
・『日本語教育講座2 音声、語彙・意味』千駄ヶ谷日本語教育研究所
・『NHK日本語発音アクセント辞典』NHK出版

第83回 じゃんけん1

外国人に日本語を教える際には、細心の注意を払って授業準備をするのですが、思わぬところで「あ、しまった」ということが生じます。 例えば、クラスでスピーチをする順番を決めようというとき。 「じゃあ、じゃんけんで順番を決めて!」と言うと、生徒たちはきょとん…。 「あ、じゃんけんを知らないんだ…」。そこで、じゃんけんを教えることになります。 「じゃんけんぽんと言って、手で石を表すグー、はさみを表すチョキ、紙を表すパーの形を作ります。 グーとチョキならグーの勝ち、チョキとパーならチョキの勝ち、パーとグーならパーの勝ちです。」と言いながら、やってみせます。 じゃんけんは多くの国にあるようですが、文化紹介になりますから日本式を教えます。 ところが、いざ、教えようとすると、「じゃんけんぽんでいいんだっけ?じゃんけんぽい?」「あいこでしょ?あいこでしょい?」と、 混乱することがあります。こういう言葉はあまり活字で見ることがないものですから。(こ)

第84回 じゃんけん2

広辞苑で「じゃんけん」を調べてみました。 そこには、「じゃんけんぽい:じゃんけんぽんに同じ」「じゃんけんぽん:じゃんけんをするときの掛け声」とありました。 そこで、実態はどうなのだろうと思い、職場の日本語教師仲間と事務スタッフに聞いてみました。数字の後は出身地です。

1 東京(23区) じゃんけんぽん あいこでしょ +じっけった
2 神奈川(横浜) じゃんけんぽん あいこでしょ +じっけった +おーらった
3 鳥取(米子) じゃんけんぽん あいこでしょ +じっけった
4 大阪(吹田) じゃんけんぽん あいこでしょい
5 鹿児島(鹿児島) じゃんけんぽん あいこでしょ
6 岐阜(関) じゃんけんぽい あいこでしょ
7 福島(会津若松) じゃんけんぽい あいこでしょ
「_ぽん/ぽい」ともに、使われているというのが、この結果からも明らかになりました。 あいこの場合も「_しょ/しょい」両方使われていました。 ただ、「じゃんけんぽん(ぽい)」以外の言い方でじゃんけんをすることがあるかという質問の答えには、差がありました。 「じっけった/ちっけった(さらに、横浜出身者はおーらった)」という言い方をするという者と、ほかの言い方はしないという者に分かれたのです。 「じっけった」とは、音からして「じゃんけんぽん」を簡略化した言い方のように思えます。 では、「じゃんけんぽん」とはどういう意味なのでしょうか。(こ)

第85回 じゃんけん3

広辞苑によると、「じゃんけん」という言葉は「石拳」から起こったもののようです。 ということは、グー、チョキ、パーとある中で、中心的なのは「グー」ということになるのでしょうか。 もしかすると、「最初はグー」と言ってじゃんけんをスタートするのは、ここから来ているのかもしれません。
ところで、前回、職場でじゃんけんの掛け声の調査結果を挙げましたが、「最初はグー」を使う者がいなかったのは意外でした。 ただ、「真剣に、気合を入れてじゃんけんをするときは、最初はグーと言う」という者はいましたが。 テレビで芸能人がじゃんけんをしているのを見ると、必ずと言っていいほど「最初はグー」でスタートしています。 「最初はグー」の起源はザ・ドリフターズだそうです。 テレビでドリフが言っているのを聞いて真似し始めた人は、30代半ば以下の人です。 「最初はグー」は意味としては分かりやすいですね。「最初は必ずグーを出そう」というわけですから。
でも、なくてもいい言葉をわざわざ言うというのはどういうことなのでしょう。(こ)

第86回 じゃんけん4

じゃんけんをするときは「じゃんけん…」と言いながらリズムを取り、「ぽん(ぽい)」で手を出しますね。 「最初はグー」がその前に付くと、リズムを取る時間が長くなります。 その分、心の準備をしてから勝負に入ることができるというわけです。 私の職場で調査した際に、「真剣に、気合を入れてじゃんけんをするときは、 最初はグーと言う」という者がいましたが、「最初はグー」の部分で気合を入れているのでしょう。
職場で調査した際に、もうひとつ聞いてみたことがあります。 複数の人間を2グループに(特に半々に)分けるときに、どんな掛け声を掛けるかということです。

1 東京(23区) ぐっぱーじゃす
2 神奈川(横浜) ぐっとっぱ +ぐっちっち
3 鳥取(米子) ぐーとぱーでくみしましょ(わかれましょ)
4 大阪(吹田) ぐーぱーぐーぱーぐーぱーしょい
5 鹿児島(鹿児島) うーらーおーもーて
6 岐阜(関) ぐっちっぐっちっぐーっち
7 福島(会津若松) うーらーおーもーて
こちらは、ふつうのじゃんけんの掛け声よりバラエティーに富んでいました。 文字で書くことはできませんが、リズムやメロディーにもかなりの差がありました。
特に目立ったのは、東京と神奈川は「ぐっ/ぱー/じゃす」「ぐっ/とっ/ぱ」と3拍なのに対し、ほかは拍数が長いということです。 特に鳥取の「ぐーとぱーでくみしましょ(わかれましょ)」はのんびりと、ゆったりした感じが優しくていいですね。(こ)

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